Works
研究開発、自然資本、教育、ランドスケープに関する事例
細胞の中でDNAがどのように折りたたまれ、ゲノム配列の情報とどのような空間的関係を持つのかを、同じ試料の中で観察・解析できるか。MIT Media Lab Synthetic Neurobiology GroupおよびBroad Instituteで、Expansion Microscopy(ExM)を応用し、細胞・組織内のゲノム構造と配列情報を空間的位置とあわせて捉える研究に携わった。
ExMは、生体試料に膨潤性ポリマーゲルを形成し、試料そのものを物理的に拡大してから観察する顕微鏡法である。試料を拡大することで、通常の光学顕微鏡でも、従来はより高価で複雑な装置を必要とした微細構造を見分けやすくする。保存された試料を拡大するため、分子や構造の位置関係を保ったまま観察できる点が特徴となる。
当時、ExMの応用として、RNAを試料内に固定し、拡大後に蛍光in situ hybridization(FISH)で検出するExFISHが開発され、組織内のRNAを高い空間分解能で観察する方法が示されていた。また、iterative expansion microscopy(iExM)では、ポリマーネットワークを段階的に形成して試料を複数回拡大し、さらなる解像度を得る方法が検討されていた。これらの技術的進展を背景に、試料を物理的に拡大する考え方をゲノム解析へ応用する可能性を探った。
研究では、ExMを基盤とする新しい顕微鏡手法に加え、新規アッセイや解析パイプラインの開発に取り組んだ。試料内のゲノム構造と配列情報を空間情報とともに扱うため、実験系の設計と解析手順の検討を進めた。また、George Church教授およびTing Wu教授が関わるMassachusetts General Hospital(MGH)の研究グループとの共同研究にも携わった。
研究に合流する前にはMcGovern Institute内でのラボ設営を支援した。在職初期には、Ed Boyden教授とPaul Reginato氏からメンタリングを受けながら、研究計画や実験を進めた。
研究の詳細には非公開情報が含まれるため、ここでは公開可能な技術背景と研究概要に限って記載している。
関連論文抜粋
Chen, F., Tillberg, P. W. & Boyden, E. S. “Expansion microscopy.” Science 347, 543–548 (2015). DOI: 10.1126/science.1260088
Chen, F. et al. “Nanoscale imaging of RNA with expansion microscopy.” Nature Methods 13, 679–684 (2016). DOI: 10.1038/nmeth.3899
Chang, J.-B. et al. “Iterative expansion microscopy.” Nature Methods 14, 593–599 (2017). DOI: 10.1038/nmeth.4261
DNAの配列そのものを書き換えずに、特定の遺伝子の働きを選択的に変えることはできないか。高校在学中、DNAメチル化による遺伝子発現制御に着目し、特定のDNA配列を狙ってメチル化するエピゲノム編集技術の研究に取り組んだ。
エピゲノムとは、DNAの塩基配列を変化させることなく、遺伝子の働き方を調節する仕組みの総称である。代表的なものにDNAメチル化やヒストン修飾があり、発生や細胞分化などの正常な生命現象に加えて、がんを含むさまざまな疾患とも関係している。
当時普及し始めていたCRISPR/Cas9は、ガイドRNAによって狙ったDNA配列を認識し、その位置でDNAを切断する技術として急速に利用が広がっていた。本研究では、この「特定のDNA配列まで分子を運ぶ」という性質を利用し、DNAを切断する代わりに、その場所のエピジェネティックな状態を変化させることを考えた。
標的配列の認識には、DNA切断活性を失わせたCas9変異体Cas9m4を用いる設計とした。Cas9m4にDNAメチル化酵素DNMT3Aなどを融合し、ガイドRNAによって目的のDNA配列へ誘導することで、標的領域を選択的にメチル化し、遺伝子発現を制御することを目指した。DNMT3Lなど、DNMT3Aの活性を調節する因子を組み合わせた構成についても検討した。
研究では、必要なタンパク質領域や融合コンストラクトを設計し、DNA合成、分子クローニング、発現までの実験を進めた。完成した編集系による遺伝子発現制御を実証するところまで到達した研究ではなく、標的型エピゲノム編集ツールを構築するための設計と基礎的な実験に取り組んだものである。
高校生が個人で分子生物学研究を進めるための研究環境も必要だった。京都大学 物質―細胞統合システム拠点(iCeMS)の杉山弘教授、大阪大学 蛋白質研究所の田嶋正二教授から研究手技に関する指導や研究材料・試薬の提供を受け、株式会社リバネスをはじめとする研究室・関係者の協力を得ながら実験を進めた。実験手技の習得にはJournal of Visualized Experiments(JoVE)なども活用した。
研究成果はScience Jam 2015で「ガン細胞を作る!?~新規エピゲノム編集ツール開発への挑戦~」として発表し、日本科学未来館賞を受賞した。研究そのものに加えて、必要な技術や設備を自ら調べ、外部の研究者へ協力を求めながら研究環境を組み立てた経験は、その後の研究活動の出発点の一つとなった。
Acknowledgements/ 謝辞 本研究を進めるにあたり、京都大学 物質―細胞統合システム拠点(iCeMS)の杉山弘教授、大阪大学 蛋白質研究所の田嶋正二教授には、研究手技に関する指導ならびに研究材料・試薬の提供をいただいた。また、株式会社リバネスをはじめ、研究活動を受け入れてくださった各研究室・関係者の方々には、高校在学中の個人研究という通常とは異なる状況のなかで、実験環境の提供や研究活動への支援をいただいた。
特に、TEDxKids@Chiyodaを通じて出会った浅田一憲博士には、研究費をご寄付いただき、その支援によって高校在学中の研究活動を継続することができた。その後も研究や進路について長く気にかけていただき、渡米を控えた際には札幌のご自宅で壮行会を開いて送り出してくださるなど、研究活動の節目ごとに背中を押していただいた。研究を始めた当時から今日に至るまで、社会の中で自由に研究をするスタンスなど大きな影響を受けた恩師の一人として、深く感謝している。
関連リンク
企業が新たにライフサイエンス領域の研究開発へ参入するとき、研究テーマを考えるだけでは実際の研究は始められない。どのような実験を行うのか、それにはどの設備や機器が必要なのか、どの程度の空間や予算を確保するのかといった条件を、研究内容と並行して具体化する必要がある。
株式会社メルカリの研究開発組織「mercari R4D」において、ライフサイエンス領域の新規事業検討と、研究開発に用いるバイオラボの設立に関するアドバイザリーを担当した。
まず、ウェットラボを設置すること自体を目的とせず、そこでどのような研究開発を行う可能性があるのかを整理するところから検討した。想定する研究分野や実験内容に応じて必要となる研究設備や実験機器を洗い出し、それぞれの導入費用、設置条件、必要なラボ面積などを検討した。
分子生物学の研究経験と、実際の研究施設や実験機器を扱ってきた経験をもとに、研究テーマと、それを実行するための空間・設備・予算を一体として整理した。例えば同じ「バイオラボ」であっても、細胞培養、分子生物学的解析、試料調製など、行う研究によって求められる設備や安全管理、空間構成は異なる。そのため、研究テーマを決めた後に設備を当てはめるのではなく、実際にどのような研究環境を構築できるかという条件も含めて初期段階から検討した。
研究内容についての議論と、実験環境を実装するための具体的な条件整理を往復しながら、企業内に新しい研究領域を立ち上げる際の初期検討を支援した。
生物多様性を高めることと、食料を生産することは両立できるのか。また、生物種が多く相互作用する複雑な生態系を、どのように調査し、評価し、設計へ生かすことができるのか。Sony Computer Science Laboratories(Sony CSL)の舩橋研究室において、「拡張生態系」を基盤とした生態系の設計・評価に関する研究開発に携わった。
本研究の基盤となった「Human Augmentation of Ecosystems」は、舩橋真俊氏が協生農法(Synecoculture)の研究を通じて発展させてきた、生態系への人間の介入を積極的に捉え直す研究枠組みである。
協生農法では、多様な植物を高密度に混植し、生物同士や環境との相互作用、生態系の自己組織化を活用しながら、食料生産と生物多様性の両立を試みる。単一作物の生産性だけを高めるのではなく、生物群集そのものの構成や相互作用を豊かにすることで、食料生産を含む複数の生態系機能が成立する環境を構築する。
Human Augmentation of Ecosystemsは、こうした考え方を食料生産だけに限定せず、人間が生態系の自己組織化や生物間相互作用を理解しながら介入し、生物多様性や複数の生態系機能を高める枠組みとして捉えるものである。
ここでいう「拡張」は、自然を人間の利用から切り離して保存することだけを意味しない。既存の生態系を基盤としながら、人間の知識、観察、管理、情報技術などを用いて生物群集や環境条件へ働きかけ、その変化を継続的に観察しながら、生態系が持つ多様な機能を引き出していく。
そのため、人間は生態系の外部にいる管理者ではなく、生態系へ作用する一つの主体として位置づけられる。あらかじめ完成形を設計して固定的に維持するのではなく、生物や環境の変化を観察し、その結果に応じて介入や管理を更新していくことが重要になる。
協生農法で検討されてきたこの原理は、食料生産から、都市緑地、健康、教育、グリーンインフラなど、より広い生態系サービスを扱う領域へ展開された。片野がSony CSLおよび一般社団法人シネコカルチャーで携わった研究でも、この枠組みを背景に、生物多様性や生物間相互作用をどのように調査・評価し、その知見を技術開発、都市、ランドスケープ、事業へ応用できるかを検討した。
研究では、生物群集を構成する種の数だけでなく、生物同士がどのように関係しているかに着目した。DNA抽出、DNAバーコーディング、メタゲノム解析など、分子生物学で用いられる手法を生態系調査へ応用し、目視だけでは把握しにくい生物相や相互作用を調べる方法を検討した。同時に、こうした解析を研究施設だけに依存せずフィールドでも利用できるよう、簡便で低コストな解析手法や研究インフラの開発にも取り組んだ。
研究対象は農園だけに限らなかった。都市緑地やランドスケープの計画、南アフリカやアジアの乾燥地域における農園設計、現地で研究を行うための施設仕様の検討など、生態学的な知見を実際の空間や事業へ展開するプロジェクトにも携わった。場所によって利用できる水、土壌、気候、生物相、設備などが異なるため、特定の方法をそのまま移植するのではなく、それぞれの環境条件に応じて研究と設計の方法を組み直す必要があった。
都市についても、生物多様性を単に増やすだけでなく、そこに形成される生物間相互作用や生態系機能が、人間の生活や社会課題とどのような関係を持ちうるかを検討した。感染症などの社会課題に対して生態系が持つ可能性を考える研究構想や、複雑な生態系について複数の人が学び、計画や合意形成に利用するための方法の開発にも関わった。
国土交通省 Project PLATEAUでは、3D都市モデルを用いて都市空間と植生の関係を検討するシミュレーターの試作に参加した。この経験は、その後データサイエンティストの竹田聖氏と構想した生態系シミュレーター「namaph」へ発展した。また、環境省のMigakibaでは、自然資本と社会資本の循環を促す共創プラットフォームをチームで提案した。
Sony CSLから関連研究が独立した後は、一般社団法人シネコカルチャーのリサーチャーとして、研究成果を社会へ実装するための活動や、企業・研究者などが参加するコンソーシアムの構想にも携わった。研究成果を論文や実験として閉じるのではなく、農業、都市、ランドスケープ、事業など異なる現場でどのように利用できるかを検討する仕事へと広がっていった。
一連の研究では、生物多様性や生態系を、保全すべき対象としてだけでなく、観察し、理解し、適切に関わりながら変化を確かめていく対象として扱った。観測データだけでなく、現場で継続的に関わる人の経験や判断も含めて生態系を捉える「間主観的客観性(inter-subjective objectivity)」の考え方など、複雑な生態系を実践の中で扱うための方法を学んだ。
また、生物種間相互作用を用いた生態系設計、生物多様性に応じた環境制御、生態系状態を評価する指標抽出など、研究成果を情報処理技術として実装する知財創出にも携わった。
関連特許 / Patents
Sony CSLおよび一般社団法人シネコカルチャーでの研究開発では、生物種間相互作用を用いた生態系設計、生物多様性に応じた環境制御、生態系状態の評価に関する技術の知財創出にも携わった。鈴木吾大氏、片野晃輔、舩橋真俊氏を発明者として、Sony Groupから以下の特許・国際出願が公開されている。
生物種間相互作用に基づく生態系設計支援技術
日本登録特許:特許第7768230号(JP7768230B2)
目的とする生態系に対して、生物種間の相互作用を考慮しながら適切な生物種の組み合わせを提示する情報処理技術。
生物多様性に応じた環境制御技術
PCT国際公開:WO2023068063A1
生態系の生物多様性に関する情報と、目標とする生物多様性の情報をもとに、環境へのミスト散布などを制御し、目標とする生物多様性の実現を支援する技術。
生態系状態の評価に用いる指標抽出技術
PCT国際公開:WO2023095624A1
複数の生態系情報を解析し、多数の環境・生物情報の中から、生態系の状態や特徴を評価するために有用な指標要素を抽出する情報処理技術。
関連リンク
背景となる研究・関連論文
以下は片野自身の論文ではなく、この研究領域およびHuman Augmentation of Ecosystemsの背景となる舩橋真俊氏らの研究である。特に2018年の論文は、本研究枠組みを示す主要な背景文献として位置づけている。
Funabashi, M. “Synecological farming: Theoretical foundation on biodiversity responses of plant communities.” Plant Biotechnology 33(4), 213–234 (2016).
DOI: 10.5511/plantbiotechnology.16.0219a
主要な背景文献 — Funabashi, M. “Human augmentation of ecosystems: objectives for food production and science by 2045.” npj Science of Food 2, 16 (2018).
DOI: 10.1038/s41538-018-0026-4
Ohta, K. & Funabashi, M. “Complementary analyses of soil microbial and chemical properties and human observation on augmented ecosystems in urban environment.” Measurement: Sensors 18, 100333 (2021).
DOI: 10.1016/j.measen.2021.100333
Funabashi, M. “Power-law productivity of highly biodiverse agroecosystems supports land recovery and climate resilience.” npj Sustainable Agriculture 2, 8 (2024).
DOI: 10.1038/s44264-024-00014-4
社会や技術の長期的な未来を考えるとき、個人の生き方、組織のあり方、環境や生態系の問題は、それぞれ独立したテーマではない。人間がどのような社会をつくり、どのような環境の中で生活するのかという問いは、相互に関係している。
NECが2050年を見据えて社会や技術の将来像を検討する「NEC未来創造会議」の2020年度第1回有識者会議に、外部有識者として参加した。「INDIVIDUAL」をテーマに、数学研究者・ジャズピアニストの中島さち子氏、NECフェローの江村克己氏らとともに、「人生100年時代を豊かに生きるキャリア構築とは?」という問いを起点として、個人の能力や感性、組織との関係、他者との共存、持続可能な社会について議論した。モデレーターは『WIRED』日本版編集長の松島倫明氏。
片野からは、自身が分子生物学、生態学、コミュニティ・バイオロジーなど異なる領域を行き来してきた経験をもとに、一つの専門領域や肩書きだけで人や活動を捉えることの限界について話した。研究成果や職歴として表面に現れるものだけでなく、どのような問題意識や価値観を持ち、どのような人や環境との関係の中で活動しているのかを見ることで、異なる分野の人々が協働するための接点も生まれやすくなる。
また、組織の中で個人の自律性を保ちながら、共通の方向性を形成することについても議論した。全員が同じ価値観や能力を持つ必要はなく、それぞれが異なる視点や専門性を持ったまま協働できる環境をどのようにつくるかという点は、生物群集や生態系を考える際の視点とも重なる。
持続可能性をめぐる議論では、生物多様性や生態系を、人間社会とは別に存在する「環境問題」としてではなく、食料、健康、経済活動、都市などを支える基盤として捉える考え方を提示した。企業や社会の未来を考える際にも、人間の活動だけを閉じた系として考えるのではなく、それを支える生態系との関係まで含めて考える必要がある。
個人、組織、社会という異なるスケールの議論に、生物学・生態学から得られる視点を接続し、長期的な社会像を考えるための一つの材料として共有した。
関連リンク
「健康によい食」を考えるとき、栄養成分や食品そのものだけを見れば十分なのか。食料は、植物や動物、微生物、農地や森林、それらを管理する人、さらに生産技術や流通など、多くの要素の関係によって成り立っている。健康やウェルビーイングについて考える際にも、その背景にある生産環境や生態系まで視野を広げることで、異なる問いが見えてくる。
NTTサービスエボリューション研究所が進めるウェルビーイングに関するリサーチプロジェクトの一環として、「健康・食」をテーマとした社内勉強会「NTT WELLBEING ROUNDTABLE」に講師として参加した。
約50分のレクチャーでは、培養肉をはじめとする新しい食料生産技術、農業、生態系、栄養、人間の健康や幸福の関係について、生物学・生態学の観点から紹介した。新しい食品や技術を、それ単体の性能や利便性だけで評価するのではなく、その生産によって利用される資源や環境、既存の農業との関係、社会に導入されたときに生じる変化まで含めて考える必要性を共有した。
例えば、食品の栄養価が同じであっても、それがどのような生産システムによってつくられるかによって、土地利用、生物多様性、資源利用、人と生産現場との関係は異なる。健康を個人の身体の内部だけの問題として捉えるのではなく、食料生産を支える環境や生態系との関係まで含めて考えることで、ウェルビーイングの対象となる範囲そのものを広げることができる。
同回には、フードデザインを研究する中山晴奈氏も講師として参加した。異なる専門領域から食と健康を捉えた後、研究所メンバーとのディスカッションを行い、食料生産技術や食生活をどのような尺度で評価するのか、技術の進展によって人と食の関係がどのように変わりうるのかについて意見を交わした。
実施後には、講義内容に加え、異なる分野の情報をつなぎながら問いを組み立てていく研究姿勢についても研究所側からフィードバックを受けた。専門領域の知識を紹介するだけでなく、食・健康・環境を一つの関係系として考えるための視点を共有する機会となった。
バイオテクノロジーを、大学や企業の研究室だけでなく、市民が触れ、考え、実践できるものとして社会に開いていくためには、どのような場所や仕組みが必要なのか。山口情報芸術センター[YCAM]が展開する研究開発・公共プログラムに2019年から複数回ゲストとして参加し、コミュニティ・バイオロジー、シチズンサイエンス、生態系、食とバイオテクノロジーなどをテーマにトークやディスカッションを行った。
YCAMでは2015年から館内にバイオラボを設け、バイオテクノロジーを芸術表現や教育、市民による実践へどのように開いていけるかを継続的に検討している。片野は、分子生物学の研究、DIYバイオやCommunity Biotechnologyへの参加、さらに生態系研究へと活動領域を広げてきた経験をもとに、専門的な研究設備や知識へのアクセスと、公共施設が研究や学習の場を担う可能性について議論に加わった。
主な登壇
2019|YCAMオープンラボ2019「ナマモノのあつかいかた」
「ワイルド・サイエンティストとして―コミュニティ・ベースド・バイオロジーの未来」と題した個人トークを行った。大学や企業などの制度的な研究環境だけでなく、個人やコミュニティが自ら問いを立て、生物学を実践するための環境について、自身の研究経験やコミュニティ・バイオロジーの事例をもとに紹介した。研究機器や実験技術へのアクセス、研究を支えるコミュニティ、専門家と非専門家の関係など、研究環境そのものをどのように社会へ開くかを扱った。
同イベントの「ミックスセッション」にも参加し、スロベニア、ガーナ、インドネシア、日本などでバイオラボやバイオアートに取り組む実践者と議論した。地域によって利用できる設備や制度、研究文化が異なる中で、バイオラボがどのような役割を担いうるのか、テクノロジーと創造性をどのようにつなげられるのかを比較しながら考えた。
2020|YCAMオープンラボ2020「続・ナマモノのあつかいかた」
「シチズン・サイエンス、コミュニティ・バイオテクノロジーの役割から、生態系の拡張まで」にゲストとして登壇した。市民が観察やデータ収集、研究活動に関わるシチズンサイエンスや、研究環境そのものを共同でつくるコミュニティ・バイオテクノロジーについて、自身の活動をもとに紹介した。
あわせて、研究対象が分子や細胞から、生物同士と周囲の環境の関係を扱う生態系へと広がってきた経緯についても共有した。研究対象のスケールが変われば、必要な観察方法や設備だけでなく、誰が研究に参加し、どのような情報を知識として扱うのかも変わる。個人やコミュニティが研究に関わることと、複雑な生態系を扱うことの接点について議論した。
2022|「食と倫理についてパーソナル・バイオテクノロジーの観点から考える」
YCAMの「食と倫理リサーチ[リサーチ・ショーケース]」関連イベントに登壇した。生態系を構築しながら多様な植物を育てる農法、細胞農業、ゲノム編集を利用した育種、昆虫食など、食料生産とバイオテクノロジーをめぐる複数の実践を題材に議論した。
新しい技術を「使うべきか/使うべきでないか」という二択で捉えるのではなく、それが誰によって利用され、どのような環境や生産システムの中に組み込まれるのかを見る必要がある。市民に開かれたバイオラボや個人による研究という立場から、技術へのアクセスと、その利用をめぐる倫理を他の研究者・実践者と考えた。
YCAMでの一連の活動は、専門的な生物学の知識を一方向に伝える講演というより、研究の方法や設備、技術そのものを誰が扱うことができるのかを、公共施設や市民社会との関係から継続的に考える機会となった。
関連リンク
社会やデザインの課題に向き合うとき、最初に与えられた問題の枠組みをそのまま受け入れるのではなく、異なる視点から対象を見直すことで、新しい問いを立てることができる。京都芸術大学クロステックデザインコースの「ソーシャルデザイン論」にゲスト講師として登壇し、生物学の研究から得てきた考え方を、デザインや社会の課題へどのように展開しているかを学生に向けて講義した。
前半では、高校時代のDNAメチル化研究から、MIT Media Labでの分子生物学研究、DIYバイオやCommunity Biotechnology、YCAMのバイオラボ、Sony CSLでの拡張生態系研究へと、自身の研究対象が変化してきた過程を紹介した。分子や細胞を扱う研究から、生物同士の相互作用、都市、生態系、ランドスケープへと対象のスケールが広がる中で、その都度、必要な問いや研究方法も変化してきた。
その過程を通じて伝えたのは、専門領域を広げること自体ではなく、対象を理解するために必要であれば、既存の専門分野の境界を越えて方法を組み直すという考え方である。同じ現象でも、研究者、設計者、生活者、あるいは別の生物から見れば、異なる問題として現れる可能性がある。
後半では、都市の生態系やランドスケープを題材に、人間を中心に空間を見る場合と、植物、昆虫、微生物など異なる主体から環境を見る場合の違いを扱った。例えば、人にとって整えられた公園や建築空間であっても、別の生物にとっては、光、水、温度、土壌、移動経路などの条件によってまったく異なる環境として成立している。
日本科学未来館「セカイは微生物に満ちている」の植栽展示も紹介し、生物が生きている状態だけでなく、枯死や分解、その後に別の生物が利用する過程まで含めて環境を捉える視点について説明した。
講義全体を通じて、あらかじめ用意された分類や専門分野から答えを探すだけでなく、対象を見る位置やスケールを変えながら、「そもそも何を問題として考えるべきなのか」を組み立て直すことを、研究やデザインに共通する方法として共有した。
関連リンク
都市の歩道や建物の周囲では、コンクリートや舗装の隙間にもコケが生育している。こうした都市環境のどこにコケが多く生育し、その分布にはどのような条件が関係しているのか。北海道大学大学院農学研究院の内田義崇准教授からの相談をきっかけに、札幌市内の都市環境に生育するコケを対象とした共同研究に参加した。
研究では、札幌市の歩道を対象にコケのバイオマスと分布を調査し、日照条件、街路樹、歩道上の人工物など、周囲の環境要因との関係を解析した。単に「都市にもコケがある」ことを記録するのではなく、どのような場所に定着しやすいのかを定量的に把握し、都市環境の構造とコケの生育との関係を検討した。
コケ植物は維管束植物とは異なり、根から水を吸収する構造を持たず、個体周辺の水分や微気象の影響を受けやすい。そのため、都市の中に生じる日陰や水分条件の小さな違いが、生育や分布に反映される可能性がある。街路樹や人工物の存在がつくる環境の違いも含め、都市空間に存在する微細な環境条件を読み解く対象としてコケを捉えた。
片野は研究計画や解析について助言し、共同研究および論文執筆に参加した。調査結果は、種ごとの分布特性も含めて整理し、2025年に『蘚苔類研究』へ発表した。
関連論文
菅原凪紗,大石善隆,片野晃輔,内田義崇「都市環境におけるコケのバイオマス,分布要因,種ごとの分布特性」『蘚苔類研究』13巻5号(2025年)
DOI:10.24474/bryologicalresearch.13.5_83
都市開発によって、生態系はどのように変わるのか。その変化を事前に把握し、異なる立場の人が同じ情報を見ながら計画を検討することはできないか。国土交通省 Project PLATEAUとPanoramatiks(株式会社アブストラクトエンジン)によるcityGMLハッカソンをきっかけに、生態系シミュレーター「namaph」をデータサイエンティストの竹田聖氏と構想した。
namaphでは、3D都市モデルや都市空間の情報をもとに、生物多様性や植生、環境条件が時間とともにどのように変化するかを可視化することを目指した。都市の緑地を「増えた/減った」と見るだけでなく、開発や環境整備によって、生物の生息環境や生態系のつながりがどのように変化しうるかを、計画段階で検討するための仕組みである。
片野は生物学・生態学の立場から、どのような現象をモデル化するか、生態系の変化をどのような指標で捉えるか、シミュレーション結果をどのように可視化するかを整理した。竹田氏はビジュアライザーや物理シミュレーター、ユーザーがリアルタイムに条件を変更できる機能など、システムの主要な技術基盤を設計・実装した。
本構想はその後、令和3年度文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業に採択され、MIT Media Lab City Science Groupの酒井康史氏らも参加した。開発の過程では、生態系の変化を予測するだけでなく、複数のステークホルダーが異なる案を比較し、なぜその判断に至ったのかを記録・共有する仕組みについても検討した。
環境に関する意思決定には、唯一の正解があるとは限らない。どの生態系機能を重視するか、誰にとっての価値を優先するかによって判断も変わる。namaphでは、シミュレーションを答えを出す装置としてではなく、異なる知識や価値観を持つ人が状況を理解し、議論するための共通基盤として位置づけた。
現在プロジェクトは一度区切りを迎えているが、都市計画や自然資本評価、ランドスケープ計画など、生態系の変化を複数の関係者と検討する必要のある領域への展開可能性を持つ。
関連リンク
都市を歩いているとき、私たちは建物、道路、植栽、人の活動などを、それぞれ別の対象として見ている。しかし生態系という視点から見れば、それらは光、水、温度、生物の移動、人による利用や管理を介して相互に関係している。WIRED CONFERENCE 2022「FUTURES/REALITIES」に登壇し、「拡張生態系」を都市や地域を読み解くための視点として扱うトーク、フィールドワーク、ディスカッションを行った。
ワークショップ「“AUGMENTED ECOSYSTEMS” AS A TOOL」では、山口情報芸術センター[YCAM]でバイオテクノロジーの芸術表現や教育プログラムに取り組む菅沼聖氏、津田和俊氏とともに、参加者と渋谷の街を歩いた。
観察の対象は、目につきやすい植物や生物だけではない。建物によって生まれる日陰、舗装面にたまる水、道路や壁による分断、人の移動や管理によって生じる環境の違いなどにも目を向け、それらが植物や生物の生育・移動とどのように関係しているかを考えた。普段は都市の背景として見過ごしている条件を一つずつ拾い上げることで、街を人間のためにつくられた空間としてだけでなく、複数の生物と環境条件が関係する生態系として読み直すことを試みた。
同時に、生態系のように多くの要素が相互作用する対象では、全体を完全に理解してから介入することは難しい。人間が「環境を良くする」と考えて行った介入であっても、予想していなかった変化を生む可能性がある。そのため、あらかじめ理想的な状態を固定して目指すだけでなく、人間自身も生態系の一部として状況を観察し、介入後の変化を確かめながら判断を更新していく姿勢について共有した。
同日のセッション「ECOLOGICAL CITIES 『拡張生態系』から描く、22世紀の都市・地域デザイン」にも登壇し、アーティストの岡碧幸氏、上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHYを拠点に活動する大塚桃奈氏らと議論した。都市や地域で環境への介入を行う際に、自然を人間から切り離して保護するだけでなく、人の生活や産業を含めた関係をどのように更新していけるかについて、それぞれの実践をもとに意見を交わした。
カンファレンスを通じて、拡張生態系を特定の設計手法として提示するのではなく、複雑な環境を観察し、人間の介入を含めた関係性を考えるための「道具」として共有した。
関連リンク
デザイン誌『AXIS』vol.221「環境に働きかける建築」特集において、DOMINO ARCHITECTS代表の大野友資氏、nomena代表の武井祥平氏と鼎談した。北海道でUtopia Agricultureが進める「Forest Regenerative Project」を題材に、建築、生態学、エンジニアリングのそれぞれの立場から、リジェネラティブなプロジェクトをどのように社会実装するかを議論した。
片野からは、生態系におけるリジェネラティブな状態を、ある環境が固定された状態へ戻ることではなく、生物や環境の相互作用を通じて自律的な再生産が続く状態として説明した。地域ごとに生態系や条件が異なる以上、特定の農法や設計手法を「リジェネラティブの正解」としてパッケージ化することはできず、継続的に仮説を立て、データを取り、現場の変化を確かめながら更新する必要があることを共有した。
鼎談では、農業用資材を用い、利用者自身が修理や変更を行える建築、ブラックボックス化しない技術、事業者や利用者が環境の変化に主体的に関与できる設計についても議論した。完成形を提示する建築ではなく、環境や運用の変化を受け入れながら更新される仕組みをつくることが、リジェネラティブな実践とどのようにつながるのかを検討した。
建築、生態系、プロダクトを別々の対象として扱うのではなく、利用する人や事業、周辺環境を含む関係性そのものを設計対象として捉える議論となった。
関連リンク
東京都による「わたしのからだは心になる?」展の関連プログラムとして開催されたトークショー「都市生態学・建築・造園の視点で見る、“つながり”の再検証」に登壇した。TOPPANからの依頼を受け、都市生態学、建築、造園、生態系研究の異なる立場から、都市における人間と非人間、生物と環境の「つながり」について議論した。
登壇者は、人工生命を扱うAlternative Machineの土井樹氏、都市生態学者の曽我昌史氏、建築家の井上岳氏、片野晃輔。塚田有那氏のファシリテーションのもと、都市環境における生物の移動やエコロジカルコリドー、緑地同士を接続することの意味、生態系へ人間が介入する際の可能性と限界などを、それぞれの専門領域から検討した。
片野からは、生態系を構成する生物同士の関係や環境条件を踏まえながら、人間が既存の生態系へどの程度介入し、新しい関係を構築できるのかについて議論した。都市の緑地を単に連続させることが常に望ましいとは限らず、接続によって生物の移動や相互作用が変化する可能性も含め、どのような「つながり」をつくるかを考える必要があることを共有した。
人工生命、都市生態学、建築、造園という異なる専門領域を横断し、都市を人間の活動だけから捉えるのではなく、多様な生物や環境との関係から読み直すトークとなった。
関連リンク
脱炭素を生活者の行動変容につなげるとき、「環境に良い行動を促す」というメッセージだけでは、事業として継続する仕組みにはならない。生活者、住宅、土地利用、事業者、サプライチェーンなど、異なる主体の行動と、その結果として生じる炭素削減をどのように結びつけ、評価するかを整理する必要がある。
脱炭素分野における新規事業の構想に向けて、国内外のカーボンクレジット制度やカーボンニュートラルに関する動向を調査し、生活者の行動変容を事業や評価の仕組みへつなげるための論点整理を行った。
検討では、個々の生活者による省エネルギー行動だけでなく、住宅の設計や設備、土地利用、サプライチェーンなど、その行動を成立させる環境まで対象を広げた。誰のどのような行動によって変化が生じ、その変化をどの段階で計測・評価するのかを整理し、異なるステークホルダーが参加できる事業構造を検討した。
カーボンクレジットについては、削減量を数値化する方法だけでなく、その削減が当該施策によって新たに生じたものか、同じ削減効果が複数の主体によって重複して計上されていないかなど、環境価値を説明する際に必要となる条件も調査した。データの統計的な扱いや、グリーンウォッシュにつながりうる評価上のリスクについても整理した。
調査結果は、国内外の制度動向、事業を構成する主体、それぞれが提供・享受する価値、評価時に確認すべき条件などをレポートとしてまとめ、事業方針の検討材料として提供した。
炭素を単独の環境指標として扱うのではなく、生活者の行動、住宅や空間の設計、土地利用、企業活動がどのようにつながることで変化が生じるのかを整理し、脱炭素を具体的な事業構想へ落とし込むための初期検討を支援した。
森林には、木材生産だけでなく、水を蓄える、土壌を守る、生物の生息環境になる、炭素を蓄えるなど、さまざまな機能がある。一方で、こうした価値を森づくりの計画や事業の説明に使おうとすると、「何を測ればよいのか」「どの指標を使えばよいのか」という問題が生じる。
青葉組が進める再造林事業を対象に、森林がもたらす複数の生態系サービスを整理し、森づくりの計画やスポンサーへの説明に利用できる評価指標・フレームワークの設計を支援した。
まず、森林の状態、施業方法、生態系サービスの関係を既往研究や公的な評価枠組みから整理した。そのうえで、炭素固定、生物多様性、水源涵養、土壌保全など、森林に期待される機能のうち、事業の目的や現場条件に応じて何を評価対象とするかを検討した。
評価指標は、数字を並べること自体を目的とせず、その結果を森づくりへ戻せることを重視した。例えば、調査によって植生や環境条件の違いが明らかになった場合、それを樹種構成や施業方法、モニタリング計画の見直しにつなげられるよう、調査・評価・管理の関係を整理した。
また、カーボンニュートラルやTNFDなどを背景に森林事業へ関わるスポンサーや事業者に対して、どこまで科学的に説明できるのか、どの部分には追加調査が必要なのかを明確にすることも重要な課題だった。既存研究や評価手法を参照しながら、森林の価値を過度に単純化せず、事業上の判断に使える形へ翻訳するための基盤を構築した。
自然資本を重視した森づくりを続けるためには、専門家から答えを受け取るだけでなく、現場にいる人が自ら環境を観察し、必要な情報を調べ、判断できることが重要になる。青葉組の造林事業を対象に、こうした能力を段階的に身につけるための人材像、研修体系、教材を設計した。
最初に、「自然資本に関心がある」という状態から、森林の状況を調査し、管理計画を立て、必要に応じて外部の研究者や専門家と協働できる状態まで、業務に必要な能力を段階的に整理した。
研修では、論文や公的資料を含む情報の探し方、AIを利用した情報収集、得られた情報の信頼性や限界の確かめ方を扱った。検索結果やAIの回答をそのまま利用するのではなく、情報の出典をたどり、現場の条件に適用できるかを判断するための科学的なリテラシーを重視した。
フィールドワークでは、調査目的を設定するところから、事前情報の収集、調査地点や記録方法の検討、植物・樹木・生物の同定、現場での記録までを一連のプロセスとして実践した。調査そのものを目的にせず、そこで得られた情報を、造林や管理方法の見直しへどう戻すかまでを研修に組み込んだ。
研修と教材を通じて、自然資本を抽象的な概念として学ぶのではなく、実際の森林を見ながら「何が起きているのか」「何を追加で調べる必要があるのか」「次にどのような管理を行うのか」を考えられる人材の育成を支援した。
子どもが身の回りを観察するとき、知識や正解を先に与えるのではなく、自分で見つけた違和感や面白さを言葉にし、他者の見方と比べながら深めていくことができる。稲盛財団の児童向け学習プログラム「キヅキランド」において、ゲームさんぽを主宰するなむさんと協働し、観察から発見を生み出すワークショップを設計・実施した。
片野が生物学やフィールドワークで培ってきた観察の方法と、なむさんがゲームさんぽなどで実践してきた対話型の鑑賞・実況の方法を組み合わせた。対象についての知識を教えることから始めるのではなく、まず「何が見えるか」「どこが気になるか」を参加者自身が見つけ、それを言葉にするところからプログラムを組み立てた。
ワークショップでは、立ったまま眺めるだけでなく、しゃがむ、寝転ぶ、見る位置を変えるといった身体的な観察を取り入れた。ものの境界線や形状を指や視線でなぞったり、見慣れたものを別の何かに見立てたりすることで、普段なら見過ごしてしまう特徴に気づく方法も試した。
ここで重視したのは、最初の解釈が正しいかどうかではない。例えば、何かを別のものと「見間違える」ことも、形や色、構造のどの特徴からそう見えたのかを考えれば、新しい観察の入口になる。他の参加者の発見を聞くことで、自分には見えていなかった特徴に気づき、そこからもう一度対象を見るという循環をつくった。
こうした方法を通じて、「正解を当てる」学習ではなく、自分なりの発見を出発点に、他者の見方を補助線としながら観察を深めていく場を目指した。科学的な観察も、最初から専門知識を持つことではなく、対象を丁寧に見て、気づいた違いを言葉にし、確かめていくところから始まる。その過程を、遊びの延長として体験できるプログラムとして設計した。
企画終了後には、参加した子どもたちが自主的に観察や書き込みを続けているというフィードバックもあった。ワークショップの中だけで完結せず、身の回りのものを見る行為そのものが、その後の遊びや学びへ続いていく可能性を感じる機会となった。
関連リンク
森林の中で牛や鶏を育てるとき、畜産と森林再生を別々に考えるのではなく、一つの生態系として設計することはできないか。Utopia Agricultureが札幌で進めるForest Regenerative Projectにおいて、ランドスケープの構想、植栽計画、研究計画、科学的な助言に携わった。
このプロジェクトでは、放牧、養鶏、植生、土壌、森林管理を個別の要素として扱うのではなく、それぞれが相互に影響する環境として捉えた。家畜が植物を食べ、移動し、排泄することも、生態系にとっては一つの作用になる。そうした動物の行動と植生の変化を含め、農業生産と森林の状態を継続的に観察・検証できるランドスケープを検討した。
鶏舎では、ニワトリの原種であるセキショクヤケイが暮らす林内環境を参照しながら、植物の構成を検討した。ただし、家畜化されたニワトリと野生種では行動特性が異なるため、自然環境をそのまま再現するのではなく、飼育環境の条件や植物への影響を観察しながら調整することを前提とした。
施設周辺の法面では、周辺に自生する植物や根系の発達する種を調べ、植生回復や土留めに寄与する構成を検討した。放牧地についても、牛による採食圧と植生・生物多様性の関係を扱った既往研究を参照し、面積と飼育頭数、環境への負荷をどのように考えるかについて助言した。
また、プロジェクトを単発の空間整備で終わらせず、環境の変化を継続的に検証するため、北海道大学大学院農学研究院の内田義崇氏との共同研究に向けた研究計画の整理にも携わった。事業者が日常的に得られる情報と、研究として必要な調査・解析をどのようにつなぐかを検討し、農場そのものを実験と学習の場として運用するための基盤づくりを支援した。
建築はDOMINO ARCHITECTSが担当し、nomenaによる設備・プロダクトなど、異なる専門領域のメンバーが参加した。片野はその中で、生態学的な調査と研究計画をランドスケープや事業の判断へ接続する役割を担った。
プロジェクトについては、Utopia Agricultureのメディア「GRAZE GATHERING」や購入者向けブックレットへの寄稿を通じて背景となる考え方を紹介したほか、DOMINO ARCHITECTSによる建築とともにイタリアの建築誌『CASABELLA』947–948号にも掲載された。

関連リンク
生物多様性に配慮した建築や都市を計画するとき、生態学の知識を設計のどの段階で、どのように使えばよいのか。完成に近い段階で「どの植物を植えるか」を専門家に相談するだけでは、敷地の構成や建築計画そのものに生態学的な条件を十分反映できない場合がある。
一般社団法人ASIBA、日鉄興和不動産株式会社、大成建設株式会社による全4回のプログラム「生き物の視点で考える都市デザイン入門」に講師として参加した。プログラムには、生物多様性情報を扱う株式会社バイオーム(Biome)も参加し、異なる専門領域から都市と生物多様性を考える構成となっていた。
建築やランドスケープのプロジェクトには、設計者、研究者、施工者、事業者、管理者など多くの主体が関わる。そのため、生態学的な検討を単独の専門業務として切り離すのではなく、「いつ、誰が、どの情報をもとに判断するのか」という設計プロセス全体の中に位置づける必要があることを説明した。
具体例として、ある生物を呼び込むために、その生物が利用するとされる植物を植えるケースを取り上げた。しかし、特定の植物があるだけで、その生物が生息できるとは限らない。林縁の構造、日照、水分、周辺の緑地とのつながり、繁殖場所や隠れ場所など、複数の環境条件がそろうことで初めて生息環境が成立する。設計では、生物種を単独で扱うのではなく、その生物が成立する環境全体を見る必要がある。
さらに、現在その土地にどのような植生があるかだけでなく、過去の土地利用や植生の履歴を調べること、植物を導入する場合には地域個体群との関係や遺伝的攪乱の可能性を検討することなど、設計前の調査によって判断が変わりうる例も紹介した。
一方で、敷地面積、予算、工期、管理体制などの条件によって、実現できる生態学的な効果には限界がある。そのため、理想的な生態系を一律に目指すのではなく、それぞれのプロジェクトで何を目的とし、どこまで調査し、どの範囲に介入するのかを設定することが重要になる。
後半のディスカッションでは、生態系への介入が複雑で、ときに予想外あるいは不可逆的な変化をもたらしうることや、生物多様性を単一のKPIで評価することの難しさについても扱った。生きもののためのデザインを特定の設計手法として捉えるのではなく、調査、仮説、設計、管理、観察を行き来しながら判断を更新するプロセスとして考える視点を参加者と共有した。
関連リンク
同じ都市でも、見るスケールを変えると、まったく異なる環境として見えてくる。人間にはひとまとまりの「植栽」や「緑地」に見える場所も、昆虫や小さな生物に近い視点から見れば、葉の表裏、植物の隙間、地面の湿り気、日陰など、細かな環境の違いが積み重なった空間である。
竹中工務店による企画展「たてものめがね まちめがね展 ―宇宙から虫まで、縮尺で考える建築の見方―」の関連プログラムとして、Veigでフィールドワークとトークイベント「みどりを覗く、虫の視点で見てみる」に参加した。
展覧会は、建築や都市を宇宙から虫まで異なる縮尺で見ることで、普段とは違う捉え方を探ることをテーマとしていた。フィールドワークではその考え方を実際の都市の緑へ展開し、会場を出てグラングリーン大阪・うめきた公園を参加者と歩いた。
植物の名前を覚えることを目的とするのではなく、植物の形や生えている位置、葉や枝の状態、生物の痕跡、光の当たり方などを手がかりに、その場所がどのような環境になっているのかを観察した。少し視点を下げたり、植物へ近づいたりすることで、遠くから見れば均質に見える緑地の中にも、異なる条件や小さな景色が存在することを確かめていった。
片野と造園家の西尾耀輔氏がVeigとして登壇し、作家・キュレーターの丹原健翔氏も参加した。フィールドワーク後のトークでは、実際に見つけたものを手がかりに、設計された都市の緑を人間の利用や景観だけから見るのではなく、そこに暮らす生物や異なるスケールから捉えることについて議論した。
都市の生態系を理解するために特別な場所へ行くのではなく、日常的な公園や植栽の中でも、見る位置や尺度を変えることで多くの関係を読み取ることができる。建築や都市を見るための「縮尺」という展覧会のテーマを、生物学的な観察へ接続するプログラムとなった。
関連リンク
東京建物が開催する国際カンファレンス「RegenerAction Japan 2025」に個人として登壇し、BIOTOPE代表の佐宗邦威氏と「文化起業家が描くリジェネラティブな社会設計」をテーマに対談した。
リジェネレーションを都市や緑地へ適用する際には、抽象的な理念をそのまま設計へ当てはめるのではなく、対象地の生態的・社会的な文脈を調査し、何を保全・回復すべきかを場所ごとに判断する必要があることを説明した。保全や回復の優先度は地域によって異なり、都市の緑地についても、すべての場所で同じ生態系の状態を目指すのではなく、目的や規模、周辺環境に応じた設計が必要になる。
また、緑地の変化を過去・現在・介入後の差分として定量的に把握する考え方や、十分な評価が難しい都市環境では、生態系について学び、考えるためのショーケースとして緑地を位置づける方法についても議論した。
こうした取り組みを実装するためには、設計以前の調査やコンサルティング、関係者間の合意形成、科学的情報を読み解くリテラシーが重要であることを共有し、企業や設計者がリジェネレーションを具体的な意思決定へつなげるための条件について議論した。
関連リンク
2027年6月11日から10月10日まで21_21 DESIGN SIGHTで開催予定の企画展に、企画チームの一員として参画している。
企画の方向性を検討する段階から参加し、展示で扱うテーマや内容について、他分野のメンバーとの議論を重ねながら企画開発に携わっている。
現在進行中のプロジェクトであるため、展覧会の詳細については公開可能な範囲に限って記載している。
生態系や土地の関係性を生物学・生態学の視点から読み解き、調査とコンセプト形成を担う。造園家の西尾耀輔氏をはじめとする専門家と協働し、得られた知見を造園・ランドスケープの実装へつなげている。
概要
「生物多様性に配慮した設計」と言っても、実際の建築やランドスケープでは何を調べ、どこから設計に反映すればよいのか。竹中工務店東京本店設計部からの依頼を受け、設計者や研究員を対象に、生態系の考え方を実際の設計へ取り込む方法について社内レクチャーとクロストークを行った。
Veigからは、これまでに手がけた庭やランドスケープを題材に、まず土地の地形や植生、日照、水、生きもの、人の利用や管理の履歴をどのように調べるかを紹介した。そのうえで、特定の植物や生物種を配置することから考えるのではなく、それらが生育できる環境や、生物同士・周囲の環境との関係を読み取り、設計条件として整理していくプロセスを共有した。
例えば、「この生きものを呼びたいから、この植物を植える」と単純に考えるのではなく、その生きものが必要とする光、湿度、植生の構造、周囲とのつながりまで考える。こうした生態学的な見方を、敷地調査や植栽計画、ランドスケープの構成へどのようにつなげるかを、実際のプロジェクトを通して説明した。
後半では、竹中工務店の設計者・研究員からも緑地設計や研究開発の事例が共有され、Veigのアプローチとの違いや共通点を比較しながら議論した。自然共生や生物多様性を理念として掲げるだけでなく、設計のどの段階で、どのような情報を集め、誰が判断するのかという実務的な論点まで話を広げた。
講演後には好意的なフィードバックもあり、生態学と建築・ランドスケープ設計の専門性を持ち寄りながら、自然共生を具体的な設計プロセスへつなげる方法を考える機会となった。
概要
文化や自然を次の世代へ残すとき、現在の状態をそのまま保存することだけが「継承」なのか。環境も文化も、人の利用や管理、社会の変化を受けながら形を変えてきたものであり、使い続けることによって残るものもある。
東京建物、Future Food Institute、Tokyo Food Instituteによる国際カンファレンス「RegenerAction Japan 2024」にVeigとして参加し、「文化遺産の進化と未来への継承」をテーマとしたクロストークに登壇した。Veigの片野晃輔、西尾耀輔と、盆栽文化を現代の生活や空間へ展開する松葉屋代表の小島哲平氏が、それぞれの実践をもとに議論した。
Veigからは、庭や生態系を扱う中で、環境を固定された完成形として捉えない考え方を紹介した。植物は成長し、競争し、枯れ、人が剪定や植え替えを行うことで庭の姿も変化する。ある状態をそのまま保存し続けることよりも、変化を受け入れながら、その場所を成立させている関係や営みを次へつないでいくことが重要になる場合がある。
これは文化の継承とも重なる。盆栽や庭、地域の産業などは、過去の形式を保存するだけではなく、その時代の人が使い、手を加え、新しい意味を見いだすことで続いてきた。都市に蓄積された文化、技術、素材、景観を、新しい活動を受け入れながらどのように次世代へ渡していくかについて意見を交わした。
また、地域への愛着やアイデンティティは、物理的なものを保存することだけで生まれるわけではなく、人がその場所に関わり続けることとも結びついている。自然と文化を別の対象として扱うのではなく、人による利用や管理を含めて変化し続けるものとして捉える視点を共有した。
会場の展示・体験ゾーンではVeigの活動と松葉屋の「TRADMAN’S BONSAI」も紹介された。トークと展示を通じ、文化遺産や自然を固定的に保存することと、変化を許容しながら継承することの間にある可能性を考えた。
関連リンク
概要
企業のオフィスに緑を設けるとき、それを景観や福利厚生のための植栽としてだけでなく、そこで働く人の観察や発想を刺激する環境としてつくることはできないか。FUJIFILM Creative Village CLAY Studioの新オフィスにおいて、デザイナーの創造性を刺激する庭をつくりたいという相談を受け、約半年間にわたりコンサルティングと共同設計を行った。
最初から特定の植栽イメージを提示するのではなく、まずCLAY Studioで働くデザイナーがどのように仕事をし、どのような環境を求めているのかを聞き取った。担当者との対話を重ねながら、企業の緑地を単なる景観やCSRの一部としてではなく、日常的に観察し、触れ、考える対象として位置づける方法を検討した。
設計に先立ち、敷地が位置する港区の土地利用や歴史、都市環境、緑化に関する制度や周辺植生を調査した。さらに、デスクリサーチだけでなく、模型を使った設計ワークショップや、実際の植物を扱う圃場でのフィールドワークをCLAY Studioのメンバーと行った。図面上で植物を選ぶだけでなく、樹形、質感、大きさ、生育環境を実際に見ながら、どのような景色がこの場所にふさわしいかを共同で考えた。
対話と調査を通じて、庭を一つの完成した景観としてつくるのではなく、異なる環境や植生のあり方が連続的に現れる空間として構成することにした。建物を時計回りに歩くにつれて、植物群落の成立や遷移、時間の流れを想像できるシークエンスを設けた。
駐車場周辺では、舗装や砂礫の質感を手がかりに、火山噴火後の裸地や砂礫地に最初に侵入する先駆植物を思わせる景色を構成した。入口付近では、シダ植物や裸子植物などを組み合わせ、より原始的で力強い植生の印象をつくった。そこから園路を進むにつれて、冷涼な地域を思わせる植生から、武蔵野の雑木林に近い景色、人の利用や管理との関係がより強く現れる植生へと移行する構成とした。
約180種を超える植物を組み合わせ、有用植物など、人が利用したり名前や性質を知ったりすることで関係を深められる植物も取り入れた。植物を背景として眺めるだけでなく、日々の仕事の中で「これは何だろう」「なぜここではこの形になるのか」と考えるきっかけをつくり、デザイナー自身が庭の変化を発見し続けられる環境を目指した。
完成した形を一方的に提供するのではなく、リサーチ、対話、フィールドワーク、設計をクライアントと共有しながら、企業文化と生態学的な視点を接続していくプロジェクトとなった。
概要
目に見えない微生物の活動を、展示室の中でどのように体験として伝えることができるか。株式会社BIOTA代表の伊藤光平氏がビジョナリーを務めた日本科学未来館の常設展示「セカイは微生物に満ちている」において、展示内に設けられる庭の科学監修とコンセプトづくりに携わった。
微生物を扱う展示では、顕微鏡写真、映像、解説などによって存在を説明する方法が中心になりやすい。一方、実際の環境では、微生物は単独で存在しているのではなく、植物、落葉、倒木、土壌、水分などと関わりながら、分解や物質循環を担っている。そこで、微生物そのものを直接見せるだけでなく、微生物の活動によって変化していく環境を来館者が観察できる庭を構想した。
展示空間には窓がなく、植物が利用できる光は人工照明に限られている。この条件を制約として排除するのではなく、光量が限られた林床のような環境として読み替えた。実際の林床で育った植物や、日陰で特徴的な樹形を示す植物を選び、落葉、根、枝、土などを組み合わせて、単に植物を並べるのではなく、生物が活動できる環境そのものをつくることを目指した。
庭には倒木も配置した。倒木は来館者が腰掛けるベンチであると同時に、菌類や昆虫、微生物などにとっての基質や生息場所にもなる。植物が成長し、葉を落とし、枯れた部分が分解され、そこからキノコなどが現れる。その変化を展示の「劣化」として排除するのではなく、展示内容そのものとして扱った。
こうした構成によって、生物の「生きている姿」だけではなく、死や分解もまた生態系を構成する過程であり、ある生物の死が別の生物の活動や次の環境につながることを伝えようとした。目に見えない微生物の働きを、周囲に残される痕跡や環境の変化から想像できる展示を目指した。
一方、生きた環境を科学館の常設展示として維持するには、一般的な造園とは異なる運用上の検討も必要だった。照明、温度、湿度、給水、植物の更新、落葉や菌類をどこまで残すかなどについて、日本科学未来館のスタッフと事前に協議を重ねた。日常管理に利用するマニュアルも作成し、展示が完成した時点だけでなく、その後の変化を含めて継続できる仕組みを整えた。
片野とルプレヒト・クリストフ氏が監修を担当し、西尾耀輔氏、吉田葵氏が庭の設計を担った。Veig設立以前の共同プロジェクトであり、後にVeigで展開していく、生態学的なリサーチを空間や庭へ接続する実践の一つとなった。
21_21 DESIGN SIGHTのサンクンコートを舞台に、企画展ごとに異なるテーマを、生物学・生態学の知見や自然環境に関するリサーチから読み直し、庭という空間へ展開している。
展示テーマに関連する生態学的な現象や、土地利用、産業、食、災害、暮らしなどと自然環境との関係を調べ、その中から庭として体験できる要素を見いだす。科学的な知識をそのまま造形へ置き換えるのではなく、展示全体のテーマや会場の条件、建築・デザインなど異なる専門領域との協働を通じて、庭の構成へ翻訳している。
同じサンクンコートを継続して使いながらも、企画展ごとに異なる問いから場所を読み替えることで、環境の見え方や庭の意味そのものを更新してきた。
「ゴミ」を、人間にとって不要になったものとしてだけでなく、環境の中に残され、周囲へ作用し続ける物質として考えるところから「漏庭」のリサーチを始めた。
廃棄物と生態系の関係は、汚染や生物への悪影響として扱われることが多い。それらの問題を小さく扱うのではなく、一方で、環境へ置かれた物質は、その形や位置によって光、温度、水分などの条件を変化させ、新しい環境をつくることもある。この「物が環境へ作用する」という側面に着目した。
会場となるサンクンコートは、コンクリートに囲まれ、強い日射と熱を受ける。地形的にも低い位置にあり、物や落葉などが集まりやすい吹き溜まりや谷底のような場所として読むことができる。
森林では、樹冠が日射を遮ることで地表の光や温度が変化し、半日陰を好む植物が生育できる環境が生まれる。この作用を手がかりに、造園工事などで使用され、最終的には廃棄される透水シートを空中に浮かべ、サンクンコートに人工的な「影」をつくる構成を考えた。
その下には日陰を好む植物を配置し、人工物がつくる光環境の変化によって異なる植生が成立する景色を構成した。
廃棄物を装飾的に再利用することを目的とするのではなく、人間にとって役割を終えた物質も、環境の中では別の作用を持ち続けることを庭として考える試みとなった。
ラーメンどんぶりという器を、その形や意匠だけでなく、器を生産してきた土地や資源との関係から見ることはできないか。「どん景」では、日本のラーメンどんぶりの主要産地である美濃地方を手がかりに、窯業と周辺の森林景観の関係を調査した。
陶磁器を焼くためには大量の燃料が必要となる。かつて薪炭が主要な燃料だった時代には、窯業を支えるため近隣の山林で伐採が繰り返されてきた。そのような継続的な人為的攪乱のもとで、アカマツを中心とした二次林が広がった地域もある。
こうした植生は、自然の力だけによって成立したものではなく、人が山へ入り、木を伐り、資源として利用し続けることで形成・維持されてきた「代償植生」として捉えることができる。
一方、燃料革命によって薪炭利用が減少すると、人による攪乱も減り、森林では遷移が進んだ。かつて窯業や地域の暮らしと結びついて成立していたアカマツ林の景色も変化し、現在ではそのものが減少している地域もある。
「どん景」では、どんぶりという製品の背後に、それをつくるための土、火、燃料、森林、人の労働があり、それらの関係によって地域の景観まで形成されてきたことを庭へ展開した。
前作「漏庭」の空間構成も引き継ぎながら、同じ場所を、美濃焼を支えてきた産業と森林利用の関係が生んだ景色へと読み替えた。作品名は「どんぶりを支えた景色」を表すとともに、「漏庭」と母音をそろえた言葉遊びでもある。庭に名前を与え、景色との関係を結んできた庭園文化も意識しながら、調査とコンセプトづくりを行った。
災害への備えを考えるとき、大規模な防災施設だけでなく、日常的な緑地が持つ機能をどのように利用できるか。「蒸庭」では、雨水を一時的に受け止める緑地の働きに着目した。
自然環境が持つ機能をインフラとして利用する考え方の一つに、グリーンインフラがある。大雨が降った際、土壌や植生が雨水を一時的に受け止めることで、水が一度に排水設備へ流れ込むことを緩和できる場合がある。
これは排水管や貯留槽、ダムなどの人工的なインフラを不要にするという意味ではない。都市では、人工的なグレーインフラと、植物や土壌、水辺が持つ機能を組み合わせ、それぞれが補完し合うことが重要になる。
会場のサンクンコートは建物に囲まれ、地面への浸透も限られる。その条件を踏まえ、水をすぐに排除するのではなく、一時的に「受け取る」場所として読み替えた。
雨によって水たまりが生まれ、水生植物が水を利用し、植物からは蒸散によって再び大気へ水が戻る。水面からも蒸発が起こる。こうした水の一時的な滞留と移動を、濡れた砂利、植物の密度、水面、葉の揺れなど、庭の日常的な景色として感じられる構成を検討した。
防災設備を直接展示するのではなく、普段は景観として存在している緑地も、条件によっては都市の水循環を支える仕組みの一部になることを考える入口として庭を構想した。
食べものは、植物や動物だけから生まれるのではなく、それらが育つ土壌、気候、水、生物、人の営みの組み合わせによって成立する。「風土スケープ」では、食と、それを生み出す土地の環境との関係を調査した。
鉄分を多く含む土、有機質の多い土、砂地、礫地など、土壌の性質は場所によって異なる。そこに気温や降水量、生物の活動、人による利用が重なることで、成立する植生や農業、採取できる食べものも変わる。
農業に適した土地では、人が環境へ継続的に働きかけることで、生産のための景観が形成されてきた。一方、栄養分の少ない土地や厳しい環境でも、その条件に適応して生育する植物を見つけ、食べるための知識や技術が培われてきた地域がある。
一般的なエディブルガーデンでは、「食べられる植物」が一つの場所に集められる。その分かりやすさがある一方、その植物が本来どのような環境で生育し、周囲にどのような景色をつくるのかという背景は見えにくくなる。
そこで、植物を単なる食材として見るのではなく、それを地域や季節の中から見つけ、安全に食べるための観察力や知識、人の営みにも目を向けた。
同じ「食べられる植物」であっても、その背後には異なる土地、気候、生態系、人の文化がある。食を入口として、それぞれの土地が生み出す景色の多様さを捉えることを庭のコンセプトとした。
『方丈記』に描かれる山中の庵での暮らしは、しばしば自然と共生する簡素な生活の象徴として読まれる。一方、実際に人が山の中で生活すれば、食料を集め、歩き、火を使い、植物を利用することで、必ず周囲の環境へ影響を与える。
「マウン庭」では、鴨長明が山中でどのような暮らしをしていたのかを考えるため、作品中に記述された自然採集の食料や、庵が存在したとされる地域、当時の植生や食料事情について調査した。
記述されている採集食だけで一年を通した生活が成立していたとは考えにくい。では、実際にはどのように食料を確保し、周囲の植物や土地を利用していたのか。自然から切り離された庵ではなく、周辺環境への働きかけを伴う生活として考えた。
生態系では、生物が採餌し、移動し、巣をつくり、同じ場所を繰り返し利用することで、周囲の植生や資源の分布が変化する。このように生物の活動によって環境へ生じる変化を、攪乱として捉えることができる。
人間の暮らしにも同じ側面がある。庵のすぐ近くでは人の活動が強く、採取や移動を行う場所へ進むにつれて、その影響は徐々に弱くなる。そこで、人の生活を中心として周囲へ広がる「影響の勾配」を、庭の構成へ展開した。
山の暮らしを、自然へ溶け込む理想的な自給自足として表現するのではなく、人が環境へ働きかけ、同時に環境から制約を受けながら生活する関係として捉えた。周辺の枝葉などを庵へ取り込み、人の行為によって少しずつ環境が変化していく景色を通じて、暮らすことそのものが環境への介入であることを考える庭とした。
概要
新しいランドスケープを計画するとき、現在敷地に見えている植物だけでは、その場所の環境を十分に理解できない場合がある。過去の土地利用、地形、水の流れ、人による管理や攪乱などを遡ることで、現在の植生がなぜその姿になっているのかを読み解くことができる。
沖縄本島北部の海岸沿いで進行する美術館周辺のランドスケープ計画に、Veigとして参加している。プロジェクトでは、現在の植生を調査するだけでなく、敷地とその周辺がどのような環境の変化を経てきたのかを把握することから検討を始めた。
現地で植物や地形を観察するとともに、郷土資料、学術論文、公的機関の資料、過去の調査記録などを参照している。現在見られる植物群落が、その土地本来の植生なのか、人為的な利用や攪乱の結果として成立したものなのか、あるいは複数の要因が重なっているのかを整理しながら、敷地を読み解いている。
海岸沿いの環境では、風、塩分、強い日射、台風なども植物の生育に大きく影響する。単に地域に自生する植物を選ぶのではなく、敷地内の場所ごとに異なる環境条件と、既存の植生や土地利用の履歴を踏まえて、ランドスケープへどのように反映するかを検討している。
Veigでは、こうしたリサーチを、完成時の植栽イメージをつくるための資料ではなく、敷地のゾーニングや植物の選択、既存環境をどこまで残すかといった設計判断の基盤として扱っている。
現在進行中のプロジェクトであるため、具体的な設計内容については公開可能な範囲に限り記載している。
概要
新しい店舗の庭をつくるとき、その場所にまったく新しい景色を持ち込むのではなく、土地や植物がすでに持っている時間を読み取りながら、新しい利用へつなぐことはできないか。フランスのファッションブランドLEMAIREの日本初のフラッグシップストア「LEMAIRE EBISU」において、庭の調査、コンセプトづくり、設計・施工にVeigとして携わった。
敷地は目黒川と渋谷川に挟まれた台地上に位置する。まず、周辺の地形や地質、土地利用の変遷、過去の植生について調査し、現在見えている庭だけでなく、この場所がどのような時間の積み重なりによって成立してきたのかを整理した。
LEMAIREにとっては日本で初めて常設の拠点を構えるプロジェクトでもあった。そのため、ブランドの世界観をそのまま庭へ翻訳するのではなく、異なる土地へ拠点を構えることと、その土地の環境をどう受け入れるかという点をクライアントと共有しながら構想を進めた。
庭のモチーフとしたのは、岩盤が露出した山腹と、そこから土壌や植生が形成されていく景色である。ただし、店舗の庭にはイベントや人の移動など都市的な利用も求められる。そこで、大きな岩を自然風に配置するのではなく、岩が崩れ、人の往来や時間によってなだらかになったような石張りとして表現した。
石は庭の中央部では大きく密度を高くし、外側へ向かうにつれて徐々に小さく、疎になるよう配置した。その隙間に苔や草が入り込める余地を残すことで、岩が風化し、有機物が蓄積し、植物が定着していく過程を想像できる構成とした。
敷地には以前から多様な樹木が生育していた。クライアントからも既存樹をできる限り残したいという意向があり、すべてを新しい植栽へ置き換えるのではなく、現在ある木々を庭の骨格として利用した。
既存樹の枝の伸び方や幹の傾きには、これまで受けてきた日照や風、周囲の建築、地形などの条件が反映されている。そうした形を一度整えて消してしまうのではなく、植物が場所へ応答してきた痕跡として読み取り、その方向性を生かしながら剪定や新規植栽を行った。
さらに、既存の親木の近くに同種の若木を植えるなど、将来の更新も計画に含めた。一つの完成した姿を長期間維持するのではなく、既存樹が老い、新しい木が育つことで庭の構成が少しずつ変わる余地を残している。
土地の地質的な時間、既存樹が育ってきた時間、ブランドが新たにこの場所を使い始める時間を重ねながら、人為と植物の成長によって継続的に形が変わる庭を目指した。
概要
庭を、その土地にふさわしい植物を配置する場所としてだけでなく、住み手が周囲の環境を発見していくための場所としてつくることはできないか。Veigとして最初に手がけた庭園プロジェクトとして、北軽井沢にある「谷川ハウス」の庭を構想した。
谷川ハウスは、詩人の谷川俊太郎氏が建築家の篠原一男氏に一編の詩を託し、その詩を起点として設計された別荘である。プロジェクトでは建築そのものに新しい意味を加えるのではなく、周囲の環境を調べながら、この場所でどのような庭が成立しうるかを考えた。
敷地周辺では、浅間山麓特有の火山性の地盤、岩場、湿地、倒木、林床植生を調査した。アカマツやブナ類、ツリバナ、ウグイスカグラなどの植物がどのような場所に現れているかを観察し、地形や水分条件との関係を読み取った。
浅間山周辺では、噴火によって生じた裸地から森林へ至るまで、植生遷移の異なる段階を見ることができる。ただし、敷地の植生を単純に「遷移の何段階目」と分類するのではなく、火山性の基盤、過去の土地利用、倒木や水分条件など、複数の要因が重なって現在の環境が成立しているものとして捉えた。
同時に、庭は生態学的に正しい環境を再現する場所ではなく、住み手の生活と関係する場所でもある。施主の遠山正道氏との対話から、料理をすること、季節ごとに食材を採取し保存食をつくることなど、日常の行為を庭の構想へ取り込んだ。
そこで、食べられる植物を分かりやすく並べた「エディブルガーデン」をつくるのではなく、植物を探し、その特徴を知り、どう食べられるのかを考える過程そのものを庭での体験として位置づけた。トゲのある植物や歩きにくい場所も一部に残し、すべてが安全で平坦な園路から見えるのではなく、身体を使って庭へ入り込むことで発見が生まれる構成とした。
また、水はけのよい高地では雨が降っても水の存在が見えにくいことから、意図的に水が滞留する場所を設けた。雨の後に数日間水が残り、乾燥していくことで、短期間の滞在でも水の動きや湿った環境の変化を感じられるようにした。
個人邸の庭では、植生や地形だけでなく、住み手がどのような景色を好み、どのように過ごしたいのかを理解することも重要になる。遠山氏とは設計に直接関係する質問だけでなく、音楽のプレイリストを共有するなど、雑談を含むやりとりを重ねた。その反応から、庭でどのような感覚や体験を求めているのかを探った。
樹種の選定も、在来植生を忠実に再現することを目的とはしていない。敷地の環境を読みながら、住み手の暮らしや興味と接続する植物を組み合わせた。もともと建物の「裏」として扱われていた場所を、人が歩き、探し、環境との関係を発見していく場所へと転換した。
竣工後、遠山氏によって庭は「表裏の庭」と名付けられた。庭の表と裏を固定するのではなく、住み手が関わることで、それまで裏だった場所が新しい表にもなるという、このプロジェクトの性格を表す名前となった。
無印良品のリノベーション 銀座店のモデルルームにおいて、観葉植物と鉢のスタイリングを担当した。
室内に置かれる観葉植物は、空間に彩りを加えるインテリアとして扱われることが多い。一方、それぞれの植物には本来生育している環境があり、光、湿度、温度、周囲の植物との関係によって特徴的な姿や景色をつくっている。
そこで、植物を単体の装飾として選ぶのではなく、「この植物がもともとどのような場所で生き、どのような景色の一部だったのか」を想像できるスタイリングを検討した。
使用した植物の一つがシュロチクである。古い竹籠と組み合わせることで、竹に似たシュロチクの姿と籠の素材感をつなぎ、里山や人の暮らしの近くに植物がある景色を参照した。
市販される観葉植物は、室内で存在感が出るよう葉や株の密度が高く仕立てられていることも多い。今回はシュロチクの株を半分以上剪定し、ボリュームを落とすことで、鉢の中に密集した観葉植物ではなく、地下茎から少しずつ株が立ち上がっているような姿へ整えた。
鉢や水鉢なども含め、個々の植物を完成したオブジェとして見せるのではなく、その植物の背後にある環境や、人と植物が関わってきた景色を室内から想像できる構成を目指した。
都市のマンションのベランダを、小さな山林のように捉えることはできないか。恵比寿のマンション最上階にある個人邸のベランダを対象に、植物を植えて完成させるだけでなく、家族が剪定や間伐を繰り返しながら育てていく庭を構想した。
最上階のベランダは周囲を遮るものが少なく、強い日射や乾燥、建物に沿って吹き上がる風、高低差による気流などの影響を受ける。こうした条件を、一般的な住宅のベランダとしてだけではなく、風や日射を強く受ける山腹の環境に重ねて読み解いた。
施主には林業に関わった経験があり、自然の中で過ごしてきた記憶もあった。そこで、それらを庭の背景として取り込み、家族、とくに子どもが植物の成長や変化に継続的に関われる場所を考えた。
植栽には山林苗を多く取り入れた。樹木を一本ずつ完成した形で配置するのではなく、複数の植物が光や空間をめぐって競争しながら成長する状態をつくり、その変化そのものを庭の景色として扱った。
そのため、この庭では剪定や間伐が単なる維持管理ではなく、庭をつくり続ける行為になる。ある枝を落とせば、その下へ光が届き、別の植物が育つ余地が生まれる。個体を間引けば、残った植物の成長や、風の通り方も変化する。
林業で森林へ手を入れるように、植物の状態を観察し、その時々でどこを切り、何を残すかを家族と考えながら庭を更新している。
剪定した枝や花は、季節の飾りとして室内で使われることもあり、手入れをきっかけに家族や友人、近隣の人との交流も生まれている。
都市の限られたベランダを、完成した景色を眺める場所ではなく、植物の競争や成長を観察し、人が継続的に手を入れることで、暮らしと環境の関係を育てていく小さな山林として構想した。
料理や菓子の中に使われている植物を、その「食材」としての姿だけでなく、実際に生きている環境とともに見ることはできないか。山に自生する植物を採取し、菓子づくりへ生かす「七十二」の営みを手がかりに、食べものと富士山麓の景色をつなぐ庭を構想した。
まず、富士山麓にどのような植物が生育しているのか、それらがどのような環境に現れ、地域でどのように利用されてきたのかを調査した。
菓子の材料として植物を見ると、葉、実、花など利用する部分だけへ意識が向きやすい。しかし、その植物は本来、単独の食材として存在しているわけではなく、木立や草地、林縁など、周囲の植物や環境条件との関係の中で生育している。
そこで、庭に食べられる植物を一覧のように並べるのではなく、客人が庭を歩きながら、その植物を周囲の景色の中から見つけられる構成を考えた。
庭の中心には、異なる性格を持つ二つの居場所を設けた。一つは周囲へ視線を広げるデッキであり、もう一つは森林の樹冠に偶然生じた空き地のような「ギャップ」である。
デッキでは庭の外まで含めた広い環境を眺めることができる。一方、ギャップでは木立に囲まれながら、周囲の植物や光の変化を近い距離で感じる。二つの場所の間を木立がつなぎ、庭の中を移動することで異なるスケールから植物を発見できる構成とした。
菓子として口にする植物と、その植物が育つ土地の景色を切り離さず、食べることを入口として富士山麓の環境へ関心が広がっていく庭を目指した。
概要
自然光がほとんど届かない空間に植物を置くとき、一般的な屋内緑化とは異なる環境の見方ができないか。(ocue . kyotoの床下空間に設ける庭では、自然光のない環境で人工照明によって成立する「照明植生(lampenflora)」を手がかりにリサーチとコンセプトづくりを行った。
床下は外部から自然光が入らず、通常の庭とは大きく異なる光環境を持っている。この条件を単なる制約として考えるのではなく、同じように自然光がほとんど存在しない洞窟に着目した。
リサーチでは実際に鍾乳洞を訪れ、観光用の人工照明の周囲に生育する照明植生を観察した。洞窟そのものには植物の光合成に必要な光がほとんどないが、人が観光のために設置した照明の周囲では、藻類、シアノバクテリア、コケ類などが生育することがある。
これは、人間が持ち込んだ光によって、本来一次生産がほとんど起こらなかった場所に新しい生育環境が生じている現象でもある。
一方、照明植生は鍾乳洞の本来の環境を変化させるため、洞窟の保全や管理においては除去の対象となることもある。そのため、照明植生を望ましい「自然」として模倣するのではなく、人為的な環境条件によって意図せず新しい植生が生まれる現象として捉えた。
床下空間でも、植物を一般的な庭のように均一に配置するのではなく、人工照明によって局所的に環境条件が生まれ、そこへ植生が現れるような景色を考える手がかりとした。
洞窟そのものを再現することではなく、自然光のない特殊な環境に人が光を持ち込むことで、新しい生物の活動が立ち上がるという関係を、床下の庭へ翻訳することを試みた。
概要
遠隔地で進むプロジェクトについて、東京のスタジオにいながら、その土地の環境や景観を継続して考えるための場所をつくることはできないか。人類と地球の共進化を促す新たな生態系を探るリサーチスタジオ「(Tentative)」の植栽計画に携わった。
スタジオが関わる開発プロジェクトの調査地を実際に訪れ、現地の地形や植生を観察した。特に、斜面地の林縁や林床など、場所によって光、湿度、植物の密度や姿が変化する環境に着目した。
森林を一つの均質な景観として捉えるのではなく、林の内部、林縁、開けた斜面など、条件の違いによって植物の組み合わせや成長の仕方が変わることに留意し、その特徴をスタジオの植栽計画を考える参照情報とした。
東京のスタジオで現地の自然をそのまま再現することが目的ではない。遠隔地で起きている環境の変化を想像し、プロジェクトについて議論する際に、その土地の景観や生態系を思い出すための手がかりとなる環境をつくることを考えた。
植栽では、植物の種類だけでなく、個体数、配置密度、植物同士の距離などを検討した。また、計画の変化やスタジオでの利用に応じて植物の位置を変えられるよう、特注の可動式プランターの仕様にも関わった。
固定された展示植栽ではなく、スタジオで行われる議論やリサーチの進展にあわせて配置や関係を更新できる構成とした。
現地調査で得られた環境の見方を、離れた場所でプロジェクトを考えるための「参照環境」へ変換し、スタジオそのものを調査や議論を支える場所として機能させることを目指した。
概要
生物多様性を映像で伝えるとき、多くの生きものを登場させるだけでは、生態系がどのように成立しているのかまでは伝わりにくい。生物は、地形、水、光、土壌、ほかの生物、人間による土地利用など、周囲の環境との関係の中で暮らしている。
生物多様性をテーマとする体験型シアター映像の企画・制作に、生態学・生物学の観点から科学監修として参加した。都市域や森林など複数の環境を対象に、過去から現在、さらに将来にかけて景観や生物相がどのように変化しうるかを整理し、映像のストーリー構成や環境描写について助言した。
監修では、画面に登場する生物種が正しいかどうかだけでなく、「なぜその生物がその場所にいるのか」を説明できる環境になっているかを重視した。地形、水の流れ、日射、風、土壌、植生の構造などを確認し、それぞれの生物が利用する空間との関係を整理した。
例えば、生物そのものを大きく映すだけでなく、巣、食痕、足跡、倒木、落葉など、生物が環境に残す痕跡を描くことで、その場に存在する生物を想像できる。攪乱や植生の変化も含め、生態系が時間の中で変化していることを映像としてどのように表現するかを検討した。
過去・現在・未来の景観についても、一つの「本来の自然」を設定して単純に比較するのではなく、土地利用や人間の活動によって環境が変化してきた履歴を踏まえながら構成した。
科学的な情報を解説文として付け加えるのではなく、鑑賞者が映像の中の環境差や生物の痕跡から関係性を発見できる体験へ変換することを目的に、リサーチ、ストーリー検討、描写の科学監修を行った。
クライアント名、制作体制、個別の企画内容については非公開。
概要
大規模な地域開発では、ランドスケープ、既存の森林や水辺、事業計画、環境価値の評価、資金調達を別々に検討すると、それぞれの判断が分断されやすい。対象地の自然環境を調査し、その情報を空間計画から事業評価まで一貫して利用するための構想支援に携わった。
まず現地でフィールドワークと植生調査を行い、地形、水辺、既存樹木、植生の構成など、敷地の環境条件を把握した。現在見えている緑の量だけでなく、どのような植生がどの場所に成立し、地形や水環境とどのような関係にあるのかを整理した。
調査結果をもとに、開発区域の中で既存環境を残す場所、新たに植栽や環境整備を行う場所、人の利用を受け入れる場所などのゾーニングについて助言した。植栽計画についても、樹木を個別に配置するだけではなく、既存樹との関係や管理方法を含め、将来的な環境の変化を考慮した構成を検討した。
一方、このプロジェクトではランドスケープ計画と並行して、森林や緑地の整備を自然資本に関する事業としてどのように評価し、外部へ説明するかも課題となった。そこで、森林管理、緑地整備、環境配慮型インフラなどを含む取り組みを「グリーンプロジェクト」として整理し、成果を示すための指標や評価方法を検討した。
さらに、グリーンボンドをはじめとするグリーンファイナンスの考え方や、資金調達時に求められる事業の説明、投資家向け情報発信(IR)についても調査した。環境への取り組みを単なる付加価値として示すのではなく、どの活動に資金を使い、どのような環境上の効果を期待し、それをどのように確認するのかを整理する必要がある。
現地の植生を調べるフィールドワークから、ランドスケープの構想、自然資本の評価、資金調達・情報開示に関する検討までを接続し、自然環境に関する情報を事業の異なる段階で利用するための基盤づくりを支援した。
具体的な計画情報については非公開。